2015年03月24日

『短歌清話 佐藤佐太郎随聞 下』の続き

印象に残った佐太郎の言葉をいくつか引く。

あなたたちの歌は皆上手いが、優等生の作文のようなところがあるんだな。何か一つ欠けているところがある。(…)それは何であるか。自分のことに裏打ちされた何かが一首一首の歌に入っていることが必要ですね。

あなた達も、私がやったように、自分で考えて自分で努力することが大事ですよ。自分で考えるという努力さえすれば、教えるという立場の側には不足はないんです。

私たちは事実を大切に思っているが、事実だからただ大事だと言って終わっていたらつまらんですよ。その中に何かがなくてはね。

斎藤茂吉はしきりに即席の歌会をした。時代も変わって、つまらないように思うかも知れないが、われわれは歌が好きなんだから、暇があったら、こういう歌会をした方がいい。

実際に、佐太郎はしばしば即席の歌会をしている。旅先での昼食後やバスでの移動の間など、少し時間があると何人かで歌会をしている。

世間ではよく老成といって年をとった方がだんだんよくなるように言うが、私はこの頃違うと思うようになった。あるところまでは伸びるが、それ以後はもう下り坂だ。

これに続いて「私なんかもう下り坂だ」と述べる佐太郎の姿は痛ましい。当時、佐太郎は74歳。常に向上を目指して努力してきた佐太郎の言葉であるだけに重く響く。

posted by 松村正直 at 06:16| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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