上下巻あわせて1050ページにのぼる本を読み終えてしまった。
もう佐太郎の声を聞くことができないと思うと寂しい限り。
下巻は昭和53年から昭和61年まで。
翌62年8月に佐太郎は亡くなるのだが、61年12月に入院中の佐太郎を見舞った際に「もう私は歌人佐藤佐太郎の言行を記録してはならない」と決断して、この随聞を終えている。
下巻のハイライトは、やはり昭和58年の連帯退会事件であろうか。この年、「歩道」の古い会員であった長澤一作、菅原峻、川島喜代詩、山内照夫、田中子之吉の5名が「歩道」を退会して新雑誌「運河」を創刊した。当初は「世間ではよくあること」と言って淡々と対応していた佐太郎であったが、やがて激怒することになる。
このあたりの経緯については、双方の言い分を聞いてみないと実際のところはわからない。著者も片方の当事者なので、すべて信用するわけにもいかないだろう。
ちょうど「現代短歌」4月号に「運河」の山谷英雄が長澤一作について書いている文章があったので、あわせて読んでみる。
長澤一作の短歌における最も大きな事件は、先ず師の佐藤佐太郎を得たことであり、また次にはその師と別れなければならなかったことである。
山谷はこのように記した上で、長澤が「終生師を敬い歌と歌論に学び続けた」と結論づけている。このあたり、自分なりにもう少し調べて考えてみたいところだ。
2009年9月27日、角川書店、2857円。