国境に向ひ出でゆく街道を自動車はどろのなか泳ぎゆく
国境にわだかまり立つ山肌の雨後の鮮けき色は見え来ぬ
黒々と山火はしりし焼け山の肌(はだへ)に沿うて雲うつりゆく
この山を迂回しのぼる路すらも砲車ゆくべき勾配につくる
国境標の石刷りの布壁にはりてたしかに踏破して来しを思ふ
「日ソ国境」5首から。
1首目、敷香から北緯50度の国境線までは約100キロ。「どろのなか」とあるので、未舗装の道路を走って行ったのだろう。
2首目、国境近くの山の姿である。西樺太山脈に連なる半田山か。
3首目、「山火」=山火事は樺太名物と言われるほどしばしば発生していた。
4首目、もしソ連と戦争になった際には「砲車」を最前線まで運べるように道が作られているのだ。このあたり、やはり国境近くならではの緊迫感がある。
5首目、国境線には標石が設置されている。その拓本を記念にとってきたわけだ。当時よく行われていたことなのかもしれない。