いい日だぜ「ぜ」をあやつって若枝のわが二十代とおく輝く
これは、加藤治郎の第1歌集『サニー・サイド・アップ』に収められている
マガジンをまるめて歩くいい日だぜ ときおりぽんと股(もも)で鳴らして
を踏まえた一首。軽やかな口語を駆使して明るい歌を詠んでいた若き日を振り返っているのだ。この二首の間に約30年の歳月の隔たりがある。
歌集には他にも先行する作品を踏まえたと思われる歌がいくつかある。
青茄子の四、五本朽ちて居たりけりこの路を行く昭和の男
『噴水塔』
赤茄子の腐れてゐたるところより幾程もなき歩みなりけり
斎藤茂吉
平凡にインフルエンザに罹りけりたのみのつなのタミフル十錠
『噴水塔』
歌人おおほかた虚空にあそぶ青葉どきたのみの綱の佐佐木幸綱
塚本邦雄
代々木野の五輪会場うす闇に馬のまなこはきらめきにけり
『噴水塔』
しんしんと雪ふるなかにたたずめる馬の眼はまたたきにけり
斎藤茂吉
こんなふうに連想しながら読んでいくのも愉しい。