信綱の幅広いジャンルにわたる活動を視野に収めようという意図がよく伝わってくる内容だ。
座談会「新体詩とは何か?」の中で研究者の勝原晴希氏がいくつも興味深い論点を提示している。
(新体詩は)黙って読むと退屈なんだけれども、歌うと、あるいは歌っているのを聞くと、そんなに退屈でもない。
歌人たちは和歌を革新したというよりは、長歌を革新した。別の言い方をすると、歌人たちの和歌革新は、長歌の革新(改良)から始まったのではないでしょうか。
だいたい近代詩は藤村からというのが普通ですね。ただ現代詩になると、朔太郎からだと言う人と、昭和のモダニズムからだと言う人とちがってくるんです。現代詩の出発はどこからかというのは、まだはっきりとしてないですね。
誌面には明治26年の「國民之友」に発表された信綱の新体詩「長柄川」が掲載されている。五七調で385句も続く長い詩で、この年の8月に長良川の洪水により多数の死者が出た出来事を詠んでいる。声に出して読んでみると、なかなかいい。
編集後記には「和歌と短歌、短歌と歌、江戸と明治をつなぐ物として、新体詩の姿が浮かび上がってきた」とある。和歌と短歌、江戸と明治を「切断」ではなく「連続」として見る観点は、今後ますます大事になってくるに違いない。
2014年12月2日、佐佐木信綱研究会、1500円。