イスラム法の専門家で、自身もムスリムである著者が、イスラーム法、死後の世界、イスラームの世界、カリフ制などについて論じている。
途中、神についての宗教的な内容や哲学的な問題も述べられていて多少難しいのだが、イスラームに関する理解を深めるには必要な部分なのだろう。
印象に残った箇所をいくつか引く。
イスラームとは政治にほかなりません。宗教としてのイスラームと、政治としてのイスラームは別のものではないのです。
自由という概念は、いまの私と五分後の私が同じ人間であるという前提があって初めて成り立つものです。
玄関を右足から出た世界と左足から出た世界とでは、ほんのわずかな違いではあっても違う世界です。
善も悪も選びうるからこそ、善を選ぶことに意味があるのです。
「カリフ制再興による領域国民国家システムの廃止」といった著者の主張は、現在の日本では夢想的な理想論としか思えない。けれども、その信念に嘘がないことはよくわかる。
人間による支配を否定して、国家の運営する「国民健康保険」にも入らないと述べる著者は、世間的に見ればかなりの変人であろう。でも、その話から学ぶことは多い。
2015年2月22日、集英社新書、760円。