2015年02月24日

『新田寛全歌集 蝦夷山家』から(その5)

来む年に檻つぎ足さむひとところ苔桃(フレツプ)熟れて採る人もなし
松の伐株(くひぜ)かこみて熟るる苔桃(フレツプ)の粒(つぶ)々紅し葉洩れ陽を吸ひ
指(て)触るればすなはち零つる苔桃(フレツプ)のつぶら実拾(ひり)ひ拾(ひり)ひて食ふも
苔桃(フレツプ)は居ながら採りて須臾(しましく)に帽に溢れぬ家づとにせむ
白秋の君が愛でにし美果実(くはしこのみ)フレツプ、トリツプわが園のうちに

昭和11年の「蝦夷山家」48首から。
新田はこの連作で「短歌研究」特別募集50首詠に入選している。

「十月下旬、おのが住む大泊を北に距ること四里余なる新場駅の前山に弟が養狐園を訪ぬ」という詞書が付いている。樺太に呼び寄せた末弟が経営する養狐園を訪れた内容だ。

1首目、狐を飼う檻を増設する予定の場所にフレップの実が生っている。
2首目、フレップは樺太の名物で赤い実を付ける。
3首目、「拾(ひり)ふ」は「拾(ひろ)ふ」の古い言い方。
4首目、たくさん採れたフレップの実を土産にしようというのだ。
5首目、北原白秋の樺太旅行記『フレップ・トリップ』を踏まえた歌。

『フレップ・トリップ』の最初には

フレップの実は赤く、トリップの実は黒い。いずれも樺太のツンドラ地帯に生ずる小灌木の名である。採りて酒を製する。所謂樺太葡萄酒である。

と記されている。

posted by 松村正直 at 21:23| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。