2015年02月22日

復本一郎著 『歌よみ人 正岡子規』


副題は「病ひに死なじ歌に死ぬとも」。

正岡子規の生涯を歌人としての側面に焦点を当てて描き出した評伝。先日子規庵を訪れたところなので、その流れで手に取った本である。

従来、あまりにも俳人子規に集中して子規が論じられる傾向にあったように思われる。そこで、本書では、「歌よみ人」子規に照準を合わせて述べてみた。

と、あとがきにある。俳人でもある著者にこう書かれてしまうのは、歌人の側からすると少し悔しい。

子規を論じる中で数多くの資料が引用されているのだが、興味深い内容のものがいくつもある。

歌よみに数派あり。真淵派といひ、景樹派といひ、なにの派といひ、くれの派といひ、各(おのおの)好むところを以て、相争ふがごとし。そは甚だいはれなき事といふべし。真淵翁の歌といへども、よきもあらむ。あしきもあらむ。また景樹翁の歌といへども、たくみなるもあらむ。つたなきもあらむ。よきはよく、あしきハあしく、巧みなるハたくみに、つたなきは拙きなり。

落合直文『新撰歌典』の文章。流派や歌人を問わず、良いものは良い、悪いものは悪いという明快な姿勢が気持ちいい。現代においても当て嵌まる内容だろう。

そこで自分は歌に就て教を受けたいのであるといふと、先生は暫く黙して居つたが、いくらでも作るがいゝのですといつて、また程経て、作つて居るうちに悪い方へ向つて居るとそれがいつか厭になつて来るのです、悪いことであつたら屹度厭になつて仕舞ふのです、といふやうなことを話された。

これは、長塚節が初めて子規庵を訪れた時のことを記したもの。歌作りの方向性について迷った時、良い指針になる言葉だと思う。

2014年2月18日、岩波現代全書、2300円。

posted by 松村正直 at 21:20| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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