2015年02月21日

『新田寛全歌集 蝦夷山家』から(その3)

貧農の弟(おとと)の便り読みゐつつ狐飼はせんこころ動ける(在郷末弟)
十段の水田作るは一偶の狐飼ふに如かず狐飼はせん
狐飼はば美林を与へ種ぎつね分譲すてふ国の掟よし
年年に二偶の銀狐殖ゑ行かば彼が生活(くらし)は豊けかるらめ
彼つひに飼狐に熟さばわれもまた銀黒狐(ぎんこつこ)買ひて彼に托さむ

昭和8年の「銀黒狐(一)」9首より。

1首目、生活の苦しさを訴える手紙だったのか。故郷の福島県で農業をしている弟を樺太に呼び寄せて、養狐業をさせようと考えている。長男である作者は、末弟の窮状を見るに見かねる思いだったのだろう。
2首目、農業と養狐業の比較。「一偶」はワンペアの意味。「十段」と「一偶」の対比が効いている。
3首目、養狐を奨励する国の政策を詠んだもの。
4首目、毎年順調に繁殖していけば、弟の生活も豊かになっていくだろうという予想。「獲らぬ狸の皮算用」といった感じがしないでもない。
5首目、さらに想像は膨らんで、自分も狐を買って弟に飼育を頼み、ひと儲けしようかと考えている。

この後、実際に弟は樺太に移住して、養狐業を始めることになる。

posted by 松村正直 at 07:56| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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