貧農の弟(おとと)の便り読みゐつつ狐飼はせんこころ動ける(在郷末弟)
十段の水田作るは一偶の狐飼ふに如かず狐飼はせん
狐飼はば美林を与へ種ぎつね分譲すてふ国の掟よし
年年に二偶の銀狐殖ゑ行かば彼が生活(くらし)は豊けかるらめ
彼つひに飼狐に熟さばわれもまた銀黒狐(ぎんこつこ)買ひて彼に托さむ
昭和8年の「銀黒狐(一)」9首より。
1首目、生活の苦しさを訴える手紙だったのか。故郷の福島県で農業をしている弟を樺太に呼び寄せて、養狐業をさせようと考えている。長男である作者は、末弟の窮状を見るに見かねる思いだったのだろう。
2首目、農業と養狐業の比較。「一偶」はワンペアの意味。「十段」と「一偶」の対比が効いている。
3首目、養狐を奨励する国の政策を詠んだもの。
4首目、毎年順調に繁殖していけば、弟の生活も豊かになっていくだろうという予想。「獲らぬ狸の皮算用」といった感じがしないでもない。
5首目、さらに想像は膨らんで、自分も狐を買って弟に飼育を頼み、ひと儲けしようかと考えている。
この後、実際に弟は樺太に移住して、養狐業を始めることになる。