2015年02月15日

花山周子歌集 『風とマルス』


2007年から2010年までの作品482首を収めた第2歌集。

鉛筆の味を知ってるわが舌が感じる黒い顔のデッサン
背中に広く空感じつつ渡りゆく橋なればわが歩幅は広し
ぶらさがり続ける力習得しオランウータンは森に帰還す
歯磨きはもう飽きたからやめようか、というふうにいかない人の営み
君に贈る青いビー玉ぼんやりと手に乗せしのちわがものとせり
夕空はひらたくなって嘘泣きの子供の声が節(ふし)おびていく
空間が減った気がする公園はジャングルジムが取り払われて
顔だけが出ている。顔が寒いなり。関東平野は北西の風
マンホールの蓋にたまった昨夜(きぞ)の雨カラスは黒い脚に飛び越す
小学校集合写真に誰よりもわれに似ている子のわれが居る

2首目、橋を渡る時の、普通の道を歩いている時とは違うちょっと特別な感じがうまく出ている。
3首目は親がいなくなったり怪我をしたりして保護されたオランウータンなのだろう。「習得」「帰還」という漢語を入れてくるところが個性的だ。
5首目は思わず笑ってしまう。君に贈るはずではなかったのか。
7首目、空間が広がったはずなのに「減った気がする」ところがいい。空間が何重にも積み重なったようなジャングルジムの立体感が彷彿とする。
10首目は当り前の話なのだが、不思議に心に残る。「子のわれ」との距離感がおもしろい。

2014年11月3日、青磁社、2500円。

posted by 松村正直 at 20:23| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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