幻影の花かざるべく花瓶より花抜き取りて生ごみに出す
上條素山
湯の中でジャスミンの葉がゆるく開き、謝るまでは許されていた
永山 源
かりかりに油まわして鶏を焼く よりよく生きる誓いのように
黒井いづみ
朝六時過ぎの着信 i phoneが震へた瞬間理解してゐた
藤松健介
上條作品、本物の花ではなく「幻影の花」を飾るという発想がいい。花瓶の上に残像が浮かんでくるようだ。藤松作品は祖父の死を詠んだ一連の1首目。これだけで誰かの訃報であることが読み手にも伝わってくる。
評論では山城周「ジェンダーを持つ短歌」が良かった。服部恵典「「歌人」という男―新人賞選考座談会批判」(「本郷短歌」第3号)に続いて、歌人のジェンダー観を問うこうした指摘が若手歌人から出るのは頼もしい限りだ。
座談会「短歌と私、私たち」の中では、北海道の屯田兵の家系に生まれたという永山源さんの発言が印象に残った。
「屯田魂」っていう言葉が本当にあって、あの、フロンティアスピリットなんですね、要するに。(…)すべてにおいてその心を忘れちゃいけないなって思うことによって、屯田兵の子孫なんだからっていう、なんだろう、誇りじゃないんですけどそういう自負?みたいなものを抱いているんで、切り開いていくっていう……そういう感じですね。
こうした気持ちをいつまでも持ち続けてほしいと思う。
2014年11月1日発行、500円。