2014年12月28日

坂入尚文著 『間道』


副題は「見世物とテキヤの領域」。

著者は芸大の彫刻科を中退後、「秘密の蝋人形館」という見世物小屋に参加し、さらに農業を経て、現在は飴細工師をしている。その経歴に沿って本書も3部に分かれており、それぞれ「見世物小屋の旅」「百姓の旅」「テキヤ一人旅」と名付けられている。

そうした旅の多い人生を通じて出会ったテキヤ、極道、美術家、農家、飲み屋の主人といった人々が、この本の主人公と言っていいかもしれない。移りゆく時代の流れから取り残されるようにして生きている人々。その影を帯びた姿を著者は克明に描いていく。そこには自分もまたその一人だという思いがある。

見世物は底抜けの芸や見る人の胸ぐらを掴むような演出を見せて消えて行く。その人たちと会えたことは私のささやかな勝利だ。まっとうな世の中ではやってられない人たち、遥か彼方にいた異能者たちに会えた。

この本に出てくる人たちの表情や生き方は彫りが深く、人と人との関わりは濃い。それでいて常に乾いた寂しさが付きまとう。

ずっしりと手応えのある一冊である。

2006年6月15日、新宿書房、2400円。

posted by 松村正直 at 09:20| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。