2014年12月23日

「穀物」創刊号(その1)

同人8名の各20首と「二人称をよむ」「時間をよむ」というテーマの一首評が載っている。以下、前半の印象に残った歌から。

感ぜざるふるへに水が震へゐる卓上にこの夜を更かしたり
窓鎖して朴の花より位置高く眠れり都市に月わたる夜を
時計草散りゆくさまを知らざればその実在をすこしうたがふ
特急の窓に凭るるまどろみはやがて筋(すぢ)なす雨に倚りゐき
                小原奈実

小原作品2首目、背の高い朴の木に上を向いて咲く朴の花。マンションの部屋からその花がよく見下ろせるのだろう。月明かりの照らす空間に浮遊して寝ているような感覚がおもしろい。小原作品はどの歌を引こうか迷うほど良い歌の多い20首であった。

電話越しに怒鳴られている現実が電車の風に薄まっていく
                狩野悠佳子
たれかいまオルゴールの蓋閉ぢなむとしてゐる われに来(きた)るねむたさ
エル・ドラド、アヴァロン、エデン、シャングリラ 楽園の名がいだく濁音
                川野芽生

川野作品2首目、エル・ドラド(アンデス奥地の黄金郷)、アヴァロン(イギリスの伝説上の島)、エデン(旧約聖書の楽園)、シャングリラ(チベットの理想郷)のいずれにも濁音が入っている点に注目した歌。下句にも「が」「だ」「だ」と濁音があり、「いだく」「だくおん」という音の響き合いも良い。

憎むなら燃えて光っているうちに。看取るなら花の象(かたち)のうちに
                小林朗人


posted by 松村正直 at 10:08| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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