帰朝後実生活上の種々の事情のために、長らく放置してゐたのであつたが、「つゆじも」を編輯したから、ついでにこの「遠遊」もいそいで編輯したのであつた。
と記されている。
その後記には「昭和十五年夏記」とあるのだが、これはどういうことだろう。日記を見ると『遠遊』の編集をしているのは昭和16年の夏である。『斎藤茂吉全集』によれば
・『つゆじも』 「長崎詠草」といふ手帳は昭和十五年夏に箱根強羅に籠居して整理されたもので、歌集の原稿はこの手帳から昭和十六年夏に浄書されたのである。
・『遠遊』 昭和十六年夏に編輯を終へた。
・『遍歴』 昭和十六年夏に編輯を終へた。
となっている。やはり『遠遊』『遍歴』の編集は昭和16年の夏のことで、「昭和十五年夏記」は何らかの誤りかもしれない。
『つゆじも』に収められる歌の清書は8月11日から始まっている。
温泉岳療養中ノ歌(昨年夏整理)ヲ清書ス(8月11日)
長崎ノ歌清書、大正七、八年終ル、十年ニ入ル(8月12日)
大正十年長崎ヲ去ルヨリ清書、大正十年終ル(8月13日)