2014年12月11日

佐藤佐太郎、斎藤茂吉、高安国世(その1)

佐藤佐太郎の『茂吉随聞』を読んでいると、昭和16年6月17日にこんな箇所があった。

(…)それから箱根行きの予定をいって、「今月末には行ってしまおう。また都合で出て来てもいい。むこうにいれば、半日寝ても半日は勉強できるし、それに朝が早いから半日プラス朝だ。左千夫の小説はどうしても読んでしまわなくては」などと言われた。
 先生は書棚から高安国世氏訳の『ロダン』(岩波文庫)とその原書とをとって、「原文も出て来た。帰るちょっとまえに買ってカバンにおしこんであったんだ。原文と対照して読んでこようと思っている」と、挿図を一枚一枚見ながら「ここまで来るのに(バルザック像)、ずいぶんかかった。まえはすべすべしたのを作っていたのが変化してこうなったんだ。毛唐はおもしろいよ。なんか常識的なことを言っていながら、ひょっと常識をはずしている」と言われた。

茂吉の言動がありありと伝わってくる。
「帰るちょっとまえに」は、ヨーロッパ留学から日本に帰る直前にということ。リルケ『ロダン』の原書を買っているのだから、茂吉はやはり一流の知識人である。

茂吉がヨーロッパで購入して日本へ送った医学書などは病院の火事で焼けてしまった。『ロダン』は「カバンにおしこんであった」ので、無事に持ち帰れたわけだ。

posted by 松村正直 at 12:36| Comment(0) | 高安国世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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