「なんにもしらないことはよいことだ。自分の足であるき、自分の目でみて、その経験から、自由にかんがえを発展させることができるからだ」と述べる著者が、日本の各地を訪ねて、文明史的な考察を加えるという内容。
初出は1960年から61年にかけての「中央公論」なので、半世紀以上も前に書かれたものなのだが、少しも色褪せていない。何ともすごい本である。
梅棹は、福山へ行って江戸時代の藩校とその後の日本の教育制度について考え、亀岡・綾部に行って、大本(教)と世界の結び付きについて考える。さらに、根釧原野のパイロットファームを訪れて、北海道の開発のあり方と独立論を考え、高崎山を訪れては、日本の霊長類研究の歴史やその意味について考える。
それらは一見バラバラなようでいて、実はすべて同じ方法や考え方によって行われているのだ。それは、
わたしがこのシリーズ「日本探検」でやろうとしたことは、現代日本の文明史的位置づけを、具体的な土地と現象に即してかんがえてみようということであった。
という一文によくあらわれている。
その考察の深さとジャンルを超えたものの見方は、まさに「知の巨人」と呼ぶにふさわしい。この本一冊だけでも、そのことが十分に理解できる。
2014年9月10日、講談社学術文庫、1330円。