第14歌集。
2012年、13年の二年間の歌から450首を収めている。
熱湯の大鍋に足折り曲げて押し込む甲羅剥ぎたる蟹を
ももいろのもろ足ぎゅっと握りしめ鳩は空中の線に憩えり
廃炉まで四十年の原発は四十年の雇用生み出す
信号の〈緑の人〉は自らは歩かず人を歩き出させる
胸に抱く男(お)の子の手足四本が太くはみ出す母の胸から
巨大なる楯岩(たていわ)の一部崩落しなお落ちそうな岩石残る
春風は吹き渡れども白加賀の花びら散らず満開なれば
ラファエロの描く赤子のキリストは丸々と肥え、西洋人の顔
五大堂前にし立ちて写真撮る後ろに堂の屋根まで入れて
腐葉土となるべき落葉 都会ではそのほとんどが燃(も)されてしまう
奥村さんは自ら「ただごと歌」を提唱し、実践している方だが、その「ただごと歌」の中にも面白い歌とそうでない歌がある。それは、歌が単なる事実の報告に終っているか、そこに何か発見や表現の工夫があるか、ということによるのだろう。
2首目は「電線」と言わずに「空中の線」と言っているのがいい。
4首目は典型的な発見の歌。
5首目は「太くはみ出す」に工夫があり、ややデフォルメされた印象を受ける。
8首目は「西洋人の顔」が面白い。当り前のことを新たに見出す面白さ。
9首目は建物の前で写真を撮る時の構図がパッと思い浮かぶ
2014年9月26日、青磁社、2300円。