2014年09月16日

阿木津英歌集 『黄鳥 1992〜2014』

第6歌集。1992年から1999年にかけて発表した作品を「あたかも画室に積み重ねたキャンバスの奥から引きだしてきて新たに筆を加え完成させていくかのように」(あとがき)推敲して、まとめた一冊。

白にごる湯をばつくりて膚傷む茄子のごとくにわが沈みたる
起き出でてしばらく坐る誰(た)が夢にわが分け入りて今朝ありにけむ
曇天はひらかむとしてみづうみに鴨の声たつ揺れのまにまに
水仙を一すぢの香の縒り出でてもの読むかうべ緊(し)めつつながる
あらはるるかたちにあればわがからだ泣き咽べるにまかせてをりつ
正月は来て立ちて見つはろばろと阿蘇の外山(そとやま)うすべにのいろ
背戸ごとの汲水場(くみづ)の段(きだ)に桶洗ひ菜を洗ひけむ言(こと)かはしつつ
吹き消すと炎ふくとき蠟燭の炎にちからありて波だつ
塵芥をさげて出で来て紅梅の枝につむ雪ゆびもて崩す
降るあめに枝よろこびてことごとく白ハナミズキかがよふ通り

タイトルの「黄鳥」は詩経の詩句から採られているが、コウライウグイスのことらしい。日本のウグイスと違って、鮮やかな黄色をしている。本の表紙にも田村一村の描いた「梨花に高麗鶯」の絵が使われている。全体に文語定型の力を感じさせる歌が多い。

1首目は入浴剤を溶かした風呂に入っているところ。
4首目は「縒り出でて」がいい。香りが煙のように見える感じがする。
5首目は飼い猫の死を詠んだ歌。ひらがなの多用が溢れ出る感情と合っている。
7首目は柳河(柳川)の光景だが、「けむ」という過去推量の助動詞の力を感じる。
9首目は朝のゴミ出しの場面。手ではなく「ゆびもて」としたところが繊細でいい。

2014年9月9日、砂子屋書房、3000円。

posted by 松村正直 at 07:22| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。