中国の春秋時代の思想家、列禦寇(れつぎょこう)の話をまとめた『列子』を紹介した本。「杞憂」「朝三暮四」などの有名な話をはじめとして、全部で20話が取り上げられている。
「諸子百家」の一人である列子であるが、孔子、孟子、老子、荘子、孫子、韓非子などに比べて、取り上げられることは少ない。巻末に紹介されている参考文献もほとんど品切れ状態である。『列子』を愛読する著者はそんな状況を何とかしたいと考えて、本書を執筆したらしい。
確かにコントみたいに面白い話がたくさんあるし、そこに現代にも通じる考え方が述べられていて、考えさせられる。
つまり、“ことばなんて忘れてしまえ!”“頭のはたらきなんて棄て去ってしまえ!”という老荘思想の主張も、それを意識して行っている限りは、やはり、“ことばや頭のはたらきを重んじる”ことの裏返しにすぎない、ということです。
この部分など、先日読んだ『修業論』で内田樹が
「我執を脱する」という努力が、達成度や成果を自己評価できるものである限り、その努力は「我執を強化する」方向にしか作用しない。
と書いているのと、多分同じことなのだろう。
たとえそこがご先祖さまのお墓ではなかったとしても、旅人がご先祖さまを思って泣いたことには、変わりはありません。あの涙は、まぎれもなく本物です。ニセモノから“本物の感動”を受け取ることもあるのです。
これなどは、今年話題になった佐村河内氏の代作問題を彷彿とさせる。既に二千数百年も前から、こうした問題は論じられてきたのであった。
このところ、円満字二郎と今野真二の本が次々と家に増えている。
脂の乗った充実期を迎えているのだろう。
2014年7月25日、新潮選書、1300円。