2014年09月11日

円満字二郎著 『ひねくれ古典『列子』を読む』


中国の春秋時代の思想家、列禦寇(れつぎょこう)の話をまとめた『列子』を紹介した本。「杞憂」「朝三暮四」などの有名な話をはじめとして、全部で20話が取り上げられている。

「諸子百家」の一人である列子であるが、孔子、孟子、老子、荘子、孫子、韓非子などに比べて、取り上げられることは少ない。巻末に紹介されている参考文献もほとんど品切れ状態である。『列子』を愛読する著者はそんな状況を何とかしたいと考えて、本書を執筆したらしい。

確かにコントみたいに面白い話がたくさんあるし、そこに現代にも通じる考え方が述べられていて、考えさせられる。

つまり、“ことばなんて忘れてしまえ!”“頭のはたらきなんて棄て去ってしまえ!”という老荘思想の主張も、それを意識して行っている限りは、やはり、“ことばや頭のはたらきを重んじる”ことの裏返しにすぎない、ということです。

この部分など、先日読んだ『修業論』で内田樹が

「我執を脱する」という努力が、達成度や成果を自己評価できるものである限り、その努力は「我執を強化する」方向にしか作用しない。

と書いているのと、多分同じことなのだろう。

たとえそこがご先祖さまのお墓ではなかったとしても、旅人がご先祖さまを思って泣いたことには、変わりはありません。あの涙は、まぎれもなく本物です。ニセモノから“本物の感動”を受け取ることもあるのです。

これなどは、今年話題になった佐村河内氏の代作問題を彷彿とさせる。既に二千数百年も前から、こうした問題は論じられてきたのであった。

このところ、円満字二郎と今野真二の本が次々と家に増えている。
脂の乗った充実期を迎えているのだろう。

2014年7月25日、新潮選書、1300円。


posted by 松村正直 at 09:09| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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