2014年09月10日

上田三四二著 『戦後の秀歌4』

全5巻のうちの第4巻。

斎藤茂吉『小園』『白き山』『つきかげ』、高安国世『真実』『年輪』『夜の青葉に』『砂の上の卓』『北極飛行』『街上』『虚像の鳩』『朝から朝』『新樹』『一瞬の夏』『湖に架かる橋』『光の春』、鈴木一念『七年』『香水草』を取り上げている。

高安国世の全13冊の歌集のうち第1歌集『Vorfruhling』を除く12冊から歌が引かれているので、高安研究には欠かせない一冊と言えるだろう。秀歌鑑賞ではあるのだが、単に褒めるだけでなく問題点も率直に指摘しているので、読んでいて面白い。

くまもなく国のみじめの露(あら)はれてつひに清らなる命恋(こほ)しき
                    『真実』
「敗戦」と題する一連の第一首。歌集の巻頭歌でもある。敗戦の事実は上句に出てはいるが、心してその事実をしっかりと押えて味わわないと、もの足りない歌になる。具体的な「もの」が足りないのである。結句の弱いのも気になる。(…)

たえまなきまばたきのごと鉄橋は過ぎつつありて遠き夕映
                     『一瞬の夏』
「遠き夕映」と簡単に言ってしまったのが不満で、欲を言えばここはもうすこし言葉をタメて、腰つよく歌いたいところである。(…)

山肌にうごける雲も葉裏飜(かえ)す楊柳もいま秋のしろがね
                     『湖に架かる橋』
「秋のしろがね」は断定が露骨にすぎて私は好まないが、景さわやかに、語また徹って、気持よく晴々とした一首である。意志して様式的な歌い方をしている。(…)

こんなふうにビシビシと厳しい指摘があって、まるで歌会で評を聞いているような気がする。

1991年5月15日、短歌研究社、2600円。

posted by 松村正直 at 17:52| Comment(0) | 高安国世 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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