先月、「塔」の全国大会にお越しいただいた内田樹さんの本を読む。
武道、それも合気道の修業について論じている本なのだが、もちろん武道のことにとどまらない広がりを持った内容となっている。
全体が4部構成となっていて、初出はそれぞれ、合気道のの専門誌「合気道探究」、仏教系の雑誌「サンカジャパン」、キリスト教系の「福音と世界」、司馬遼太郎記念シンポジウムの草稿とばらばらなのだが、語っている内容は一つのことと言ってよく、新書としてのまとまりは良い。
内田さんの本は、内容ももちろんなのだが、その論理展開の鮮やかさに惹かれる。ふだん漠然と思っていることや考えていることが鮮やかに引っくり返される快感とでも言おうか。
修業する人は「自分が何をしているのか」を「しおえた後」になってしか言葉にできない。
「そつ(口+卒)啄の機」においては、実は「母鳥が殻を外からつつき、雛鳥は内からつつき」という言い方自体が不正確だったということになる。母鳥も雛鳥も、卵が割れたことによって、その瞬間に母としてまた子として形成されたものだからである。卵が割れる以前には母鳥も雛鳥も存在しないのである。
こんな文章がたくさんあって、何度もハッとさせられる。時おり詭弁すれすれのような感じも抱くのだが、その語り口はやはり見事と言う他にない。
2013年7月20日、光文社新書、760円。