「剃刀」「濁った頭」「笵の犯罪」と、推理小説風な話がいくつも。5歳くらいの女の子を騙して家に連れて来てしまう「児を盗む話」などは、最近の事件を思わせる内容だ。
私はその晩この児を盗む想像に順序を立てた。実行の決心は中々つかなかった。然し只想像を繰り返すだけでは満足出来なくなった。私は可恐々々(こわごわ)玩具(おもちゃ)とか、子供の好きそうな菓子などを用意して見た。私の肩は相変らず凝っていたが、気分は快い緊張を感じていた。
他にも、京都で下宿を探す「ある一頁」が、当時の京都の町の様子を伝えていて興味深い。
1968年9月15日発行、2011年9月15日改版、新潮文庫、520円。