2009年に解放出版社から刊行された本に加筆修正し、文庫化したもの。
巻末に平松洋子との対談「働くことの意味、そして輝かしさ」を収録。
小説家としてデビューする前に、「大宮市営と畜場」で十年半にわたって牛の屠殺を行ってきた著者が、その仕事の内容や同僚たちの姿を描いた自伝的なドキュメンタリー。
「ここは、おめえみたいなヤツの来るところじゃねえ」と怒鳴りつけられたスタートから、やがて一人前となり、作業をリードする立場になるまでの経過が描かれている。
「ノッキングペン」「放血場」「面皮剥き」「皮剥き」「尻剥き」「胸剥き」「サイドプーラ―」「胸割」といった仕事の様子が詳細に記されており、その生々しさと迫力に圧倒される。特に、ナイフの研ぎ方や使い方に習熟していく場面は、読んでいてその気持ち良さが伝わってくるほどだ。
朧気に感じていたのは、これは道具がした動きなのだということだった。青竜刀のように反り身になった皮剥き用の変形ナイフは、いま私がした動きをするように形づくられているのだ。その形は幾百幾千もの職人たちの仕事の積み重ねによって生み出されたものであり、誰もが同じ軌跡を描くために努力を重ねてきたのだ。
2000年に新潮新人賞を受賞したデビュー作「生活の設計」も、ぜひ読んでみたい。
2014年7月12日、双葉文庫、528円。