副題は「めぐり逢う旅と「豪華列車」誕生の秘話」。
昨年10月に運行を始めた「ななつ星 in 九州」。
3泊4日、または1泊2日の日程で九州をめぐるクルーズトレインだ。
この列車のアイデアが出されてから実現に至るまでの様々な苦労と、それに携わった人々を描いたノンフィクション。中心となるのは、唐池恒二(JR九州社長)と水戸岡鋭治(デザイナー)の二人である。
唐池はかなりワンマンで実行力に富む社長であり、水戸岡はデザインで地域や人々の生き方まで変えようと考えるデザイナーである。この本には、そんな個性的な二人の考えがいくつも紹介されている。
唐池哲学のひとつに「手間こそ感動」がある。今回の「ななつ星」においては、とりわけ「手間」を徹頭徹尾追い求めた。
犠牲をともなわないものに感動なんてなく、誰かがとんでもない犠牲をはらっているからこそ感動するのだ、と水戸岡は思う。
こうした考えは嫌いではないのだけれど、本書が全体として「プロジェクトX」的な成功譚になっているところに、若干の物足りなさを覚えた。半年にわたる密着取材のためだろうか、著者と取材対象の距離が少し近過ぎるように感じる。
プロジェクトの光の部分だけでなく、影の部分ももっと描いてほしい。それは、別に「ななつ星」ブームに水を差すことにはならないと思う。
2014年4月26日、小学館、1400円。