2014年07月08日

坂井修一歌集 『亀のピカソ』


副題は「短歌日記2013」。
ふらんす堂HPの「短歌日記」に1年間にわたって連載された作品365首をまとめた第9歌集。

前歌集『縄文の森、弥生の花』もそうだったが、情報工学と短歌という二足の草鞋の折り合いをどうつけるかが、大きなテーマになっている。

ほほゑみがどんどん深くなつてゆくピーター・ヒッグス八十三歳
水槽の亀のピカソがその主(ぬし)の進歩史観をしづかに笑ふ
ペーストを終へて次なるコピーへのつかの間だけがにんげんの息
失業者五五〇万はなにをせむ世界平和の後の世界に
うすうすは知れど語らぬことのはの葉脈いくつワインはひたす
ゆつくりと畳みのうへにふりつもる母たちの時間 われらにあらず

4首目には「雇用者数世界最大の事業者はアメリカ国防軍であり、三二〇万人。次が中国の人民解放軍で、二三〇万人。」という文が付いている。
自然(季節、植物、動物など)を詠んだ歌は、ほとんどない。

〈くりかへす体言止めの貧しさやわれのことばの梅雨といふべし〉と自ら詠んでいるように、365首中ざっと数えて150首くらい体言止めの歌があって、やや単調な印象を受ける。また、散文部分に「駒田明子」「木下杢太朗」などの誤植があるのも気になった。(正しくは駒田晶子、木下杢太郎)

「歌やめよ」三十三年われに言ひ喜連川さんの額ひろがる

この「喜連川さん」はおそらく第1歌集『ラビュリントスの日々』に詠まれた「喜連川博士」のことだろう。

生きいそぐ一語はげしきラボの椅子喜連川(きつれがは)博士われを非難す

「三十三年」という歳月の長さにしみじみとした気持ちになる。

2014年6月1日、ふらんす堂、2000円。

posted by 松村正直 at 10:21| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。