2014年06月23日

佐々木健一著 『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』


「ケンボー先生」こと見坊豪紀(ひでとし)と「山田先生」こと山田忠雄。
辞書作りに情熱を燃やした2人の生涯を、それぞれが編んだ辞書を基にたどったノンフィクション。2013年4月29日にNHK−BSプレミアムで放映されたドキュメンタリー番組の内容に、新たな証言などを追加して構成したもの。
著者は同番組のディレクター。

今年1番の本。

東京帝国大学文学部国文科の同期で、昭和18年に『明解国語辞典』を協力して編纂した二人が、やがて訣別し、それぞれ『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』を編纂することになった「昭和辞書史最大の謎」を解き明かす。

その方法が実にユニークだ。当時の資料や関係者の証言を集めるのはもちろんなのだが、それに加えて、ある時から著者は2人の編纂した辞書に載っている「用例」に注目するようになる。

単なる国語辞書の「用例」だと思い込んでいたものが、突如、編纂者の人生に深く関わる“意味”を持ったことばへと一変した瞬間だった。

まるで推理小説のような謎解きの面白さが、この本にはある。「おそらくこれまで誰も気づかず、同時に今、自分だけがその記述の秘められた“意味”を見出したことに、激しい興奮をおぼえた」という著者のワクワク感が、そのまま伝わってくる。

2人の編纂者の友情とライバル心、感謝やコンプレックス、理想とする辞書や編纂方法の違い。既に亡くなった2人だけが知っていた、その本当の思いに光を当てる素晴らしい内容だ。たぶん僕が書きたいのも、こういう本なのだと思う。

2014年2月10日、文藝春秋社、1800円。


posted by 松村正直 at 18:00| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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