今号の特集は「斎藤茂吉」。ゲストは内山晶太。
斎藤茂吉記念館。
「極楽」を妻に見せむと来たりけり「極楽」を見て妻はよろこぶ /高島裕
雨晴れて夕日は差せり、硝子戸の向かうの庭に虫は耀(かがよ)ふ
まんまんと夕かがやきの最上川行くをし見つつ立ち去り難き
高島の「柿色の国」30首は、山形県の斎藤茂吉記念館や茂吉のふるさと金瓶、疎開先の大石田を訪れた一連。1首目の「極楽」は小便用のバケツのこと。2、3首目のような生命力のある自然詠は、最近では詠む人が少なく、高島ならではという感じがする。
また、30首のうち9首に「妻」が詠まれていることにも注目した。もう一つの連作「さざなみ」30首も8首に「妻」が出てくる。茂吉や靖国神社といった表のテーマに対して、裏のテーマとなっていると言っていいだろう。
火炎のような言葉
焼き魚、焼かれながらに火を吐くとちいさき魚の胸あふれたり /内山晶太
パイレートという煙草を買って、その中の美人の絵だけを
とって中身をこの堀の水に棄てた
体操服棄てられてある用水路におとろえて冬の日のみずの色
内山晶太の「点をつなぐ」30首は、すべてに詞書が付いている。説明はどこにもないのだが、どれも茂吉の散文である。2首目の「パイレート・・・」は「三筋町界隈」の一文。茂吉の散文に触発されて歌を詠む、ある種の競演とも言うべき試みである。
2014年6月3日、TOY、600円。