ありがたいことだと言へりふるさとの浜に遺体のあがりしことを
夜の浜を漂ふひとらかやかやと死にたることを知らざるままに
余震(なゐ)の夜を愛されてをりまざまざと眼裏に顕つ瓦礫のなかを
湯の内を浮き上がり来るまろき玉どの瞬間にひとは逝きしか
その土地でなければならぬ人たちの苦しみ銀杏の葉はどつと落つ
わたしたちどの辺りまで来たらうかつめたくこごる手を求めあふ
原発に子らを就職させ来たる教員達のペンだこを思(も)ふ
地震(なゐ)ののち海辺の家へと急ぐひとの一筆書きのいのちなりけり
みなどこか失ひながらゆふぐれに並びてゐたり唐桑郵便局
喪のけふも祭りのけふも数行に約めて母の三年日記
「以後」の歌から。
1首目「ありがたい」という言葉にハッとさせられる。まだ行方不明の方も多い。
3首目、生と死の極限のような歌。おそろしいほどに美しい。
4首目は白玉団子を作っているところ。団子が人の身体を離れる魂のようだ。
5首目は放射能を詠んだ歌。
7首目、原発は安定した職場として地元では人気があったのだろう。
8首目、「一筆書き」に人の命のはかなさを感じる。
9首目、まるで身体の一部を失ったかのような喪失感。
こうした歌は、単なる震災のドキュメントではない。
十分に歌として昇華された内容となっている。
震災後にこうした数々のすぐれた歌を詠み続けてきた作者の精神力に心を打たれる。それは、やはり震災前からふるさとの風土や海を詠んできた作者にしかできなかったことなのだと思う。
多くの人に読んでいただきたい一冊です。