2014年06月03日

小島ゆかり歌集 『泥と青葉』


病む父を鞄につめて旅立ちぬもみぢうつくしからん津軽へ
竪穴式住居に入ればわがものとおもはれぬ低きこゑは出でたり
ひとつ石に泉のごとく陽は満ちて石のいづみに蝶はあつまる
スマートフォンをすべる娘の指に似て反りほのかなる茗荷を洗ふ
雨たまるほどに腹部のへこみつつ横倒れに餓死したる乳牛
ああ犬は賢くあらず放射線防護服着る人に尾をふる
彼岸花の小径をゆけば先に行く人より順に彼岸花になる
母であるわたしはいつも罅(ひび)入りの甕いつぱいに水を汲む人
はなみづきのはなさくころの浮遊感はなみづきはそらばかりみてさく
水道管工事の人の弁当の卵かがやく五月となりぬ

2009年夏から2013年初夏までの作品511首を収めた第12歌集。

老いた父、母、姑の歌、東日本大震災の歌など、全体に重さや疲れを感じさせる歌が多い。作歌の時期が重なっている『純白光―短歌日記2012』とは、随分と印象が違う。

1首目、年老いた父に心を残しつつ旅をする。旅をしながらも常に気になっている。
4首目は「娘の指」から「茗荷」への飛躍に驚くが、なるほどという感じがする。
5首目、6首目は原発事故の歌。避難地域の動物に焦点を当てて詠んでいて印象に残る。
8首目、母親としてできる限りのギリギリまで頑張ってしまうのだろう。
10首目は何でもない歌だが、卵の明るさに小さな希望を感じた。

2014年3月14日、青磁社、2600円。

posted by 松村正直 at 07:19| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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