2014年05月28日

木下こう歌集 『体温と雨』

たて笛に遠すぎる穴があつたでせう さういふ感じに何かがとほい
草木(さうもく)を食むいきものの歯のやうなさみしさ 足に爪がならぶよ
階段といふ定型をのぼりつめドアをひらくと風がひろがる
雨垂れの音飲むやうにふたつぶのあぢさゐ色の錠剤を飲む
てのひらにみづひびかせて水筒に透明な鳥とぢこめてゆく
森の木と森のてまへに並ぶ木はすこし思考がことなるやうだ
路傍(みちばた)にしやがみて犬を撫づるとき秋をひとつの胡桃と思ふ
川を見てあなたと帰るゆふまぐれ「かとう小鳥店」なくなりぬ
身にふれて濡るるからだを覚えたりこの薄絹は雨にあらねど
煮ればなほつやめきながら魚(うを)は冷ゆ魚のまなこは雪をみてをり

2009年から2013年までの作品260首を収めた第1歌集。
繊細で鮮やかなイメージと言葉づかいが魅力的である。

1首目、確かにリコーダーを吹く時、小指がつりそうなほど遠かったなと思い出す。
4首目、「雨垂れ」ではなく「雨垂れの音」を飲むように、というのが面白い。
5首目、水筒に水を入れていく時の音の感じだろうか。イメージが鮮烈である。
8首目、何でもない場面であるが、日々が過ぎてゆくことに対するかすかな喪失感が滲む。
9首目、「身にふれて」から始まる語順がうまい。「薄絹」が肌にひんやりと触れる感じ。

「やうな」「やうに」といった直喩が多く、現実とイメージが巧みに組み合わされて、二重写しのような世界が広がる。作者のセンスの良さは紛れもないが、その一方で、少し線が細すぎるかもしれないとも思った。

2014年5月12日、砂子屋書房、2500円。

posted by 松村正直 at 07:57| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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