2014年05月27日

岡田喜秋著 『定本 日本の秘境』


雑誌「旅」の編集長を務めた著者が、昭和30年から35年にかけて日本各地をめぐった紀行文をまとめたもの。「山」「谷」「湯」「岬」「海」「湖」という6つのジャンルを各3か所ずつ、計18篇が収められている。

昭和35年に東京創元社より単行本として出版され、その後、角川文庫やスキージャーナルで再刊され、今回それらを再編集した上で「定本」として文庫化された。

高度経済成長期のダム建設や大規模林道の開通により、今では見られなくなってしまった景色や、失われてしまった暮らしの姿が、色濃く描かれている。昭和45年生まれの私にとっては、体験することのなかった世界と言ってもいいかもしれない。

また、著者の文章が実にいい。その土地の風土や歴史を随所に織り交ぜながら緻密に描写していくスタイルは、まるで民俗学のフィールドワークでもしているかのようだ。その中に、しばしば鋭い批評が現れる。

地方の旅館が等しく風土料理よりも焼海苔や卵焼といった月並みな料理を食膳に出す習慣があるのも、考えてみればそこに泊まる客のほとんどが近隣の地元民である以上、致し方のないところなのだろう。

(隠岐への航路が冬期は夜間ではなく昼間であることに対して)
聞けば、それは日本海に浮遊する機雷を避けるためだ、という答えを得た。今どきまだ機雷の心配があるのかとさらに聞きただせば、この機雷は戦後でも朝鮮戦争のころは、かなり脅威の対象になっていたというのである。

芭蕉がこの雄大な蔵王の姿に接しなかったことは気の毒である。気の毒というよりも、みちのくの旅で蔵王の記述が抜けたことは、それ以後、現代まで蔵王のために惜しむべきである。

この人の文章は、もっと読んでみたい。

2014年2月1日、山と渓谷社、ヤマケイ文庫、950円


posted by 松村正直 at 09:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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