2014年05月25日

『ゆりかごのうた』の続き

  500×0.8=400。
ペットボトル八分目まで水を入れて胎児の重さ片手で想ふ
赤ら引く吾子の体重訊く人のありて身長訊く人のなし
みどりごは見ることあらぬイラストの虎の子見つつ襁褓を換へる
寝かしつけてふすまを閉める おまへひとり小舟に乗せて流せるごとく
空砲なのか実弾なのか匂ひすればムツキを開ける斥候われは
焙じ茶の缶をひたすら振る子かなそこに花野が見えるらしくて
春の日のトンネル過ぎて振り返る吾子にもすでにすぎゆきのあり
酸つぱい顔教へてをりぬ甘夏を食べて困つてゐる一歳に

後半から。
この歌集の一番の特徴は、何と言っても子どもを詠んだ歌が豊富にあることだろう。妊娠初期から14ヶ月に至るまでの赤子の成長が、男親の立場から克明に詠まれている。

おそらく、これは画期的なことだ。
男性歌人の子育ての歌は今後ますます盛んになっていくに違いない。

1首目は400グラムという胎児の重さを具体的に想像している場面。
4首目、寝かしつけてそっと部屋から出てくるところ。「小舟」という比喩がうまい。
5首目はユーモアたっぷりの歌。臭うなと思っておむつを外してみても、便は出ていないことがよくある。
8首目、親の方も一緒に、と言うよりむしろ先に、口や目をすぼめるような「酸つぱい顔」をしてみせるのだろう。どんな表情をしたら良いのかわからずに困っている子どもに向けて。

posted by 松村正直 at 14:33| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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