折々に沈黙(しじま)へ櫂をさし入れて舟漕ぐやうな会話と思ふ
安田百合絵
風みえて欅散りをり木版のごとくかするる西日のうちを
小原奈実
水馬(あめんぼ)に馭せられ見いるみずたまりなべて記憶は上澄みを汲む
千葉崇弘
朝焼けにうっすら染まった猫が来てひとつずつ消していく常夜灯
鳥居 萌
7首連作×6名、12首連作×7名、20首連作×2名が載っている。
作品だけでなく評論が充実している点が大きな特徴だろう。
特に「短歌 ジェンダー ―身体・こころ・言葉―」という特集は読み応えがある。
・開かれた「私」 現代短歌における作者の位置(吉田瑞季)
・〈母性〉の圧力とその表現―大口玲子『トリサンナイタ』について、俵万智『プーさんの鼻』に触れつつ(宝珠山陽太)
・「歌人」という男―新人賞選考座談会批判(服部恵典)
3篇ともに文章がしっかりしていて、作者と作中主体の関係や短歌におけるジェンダーの問題を深く考えさせる内容となっている。