2014年04月05日
高瀬毅著 『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』
原爆によって破壊された長崎の浦上天主堂の遺構をめぐるノンフィクション。2009年に平凡社より刊行された単行本を文庫化するに当って、東日本大震災に関する記述が追加されている。
浦上天主堂の遺構は当初「原爆資料保存委員会」から保存の答申が出され、長崎市長や教会側も保存に前向きであった。しかし、米セントポール市と長崎市の姉妹都市提携や、市長や司教の渡米を期に状況は一転し、昭和33年に取り壊されてしまう。その背景には一体何があったのか。これが本書のテーマである。
小さな資料の積み重ねによって、大きな歴史の動きがまざまざと浮かび上がってくる。そこにはミステリを読むような興奮がある。途中、筆者の推測や憶測が先行しているのではないかとの危惧も感じたのだが、後半になるに従って修正されていった。
何よりも、筆者が自分の推論に不利な証言もきちんと収めているところに信頼を覚える。これは当り前のことのようでいて、意外に難しいことだろう。自分の論に有利な証言や証拠だけを選んで載せることも可能だからだ。
資料の調査には「ネットリサーチのための専門のスタッフ」が協力したと言う。図書館や資料館での調査や当事者への取材に加えて、今ではネットでの検索も、ノンフィクションを書く上で欠かせないものになっているのだろう。
2013年7月10日、文春文庫、650円。
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