副題は「最果ての要衝・占守島攻防記」。
千島列島の最北端、カムチャツカ半島に面する占守島(しゅむしゅとう)。終戦後の8月17日から、この島をめぐって行われた日本軍とソ連軍の戦いを描いたノンフィクションである。
多くの当事者に取材を行い、その証言や手記などをもとに、戦闘の状況や経過を実に詳しく描き出している。従来8月18日未明とされてきたソ連軍の上陸を17日深夜としたのも、その一つだ。
あとがきには
わたしが取材を始めたのは、昭和五十四年でした。残念なのは、本にするまでに二十九年を経過し、当時取材させて戴いた方々の多くが他界され、また病床におられるという時間の現実です。
とあり、この本が出版されるまでの苦労がよくわかる。
当事者の証言を集めていく中で、いくつかの疑問点や矛盾も生じる。戦場では誰もがすべてを把握して行動しているわけではないし、自分に不利なことは誰も語りたがらない。そこに、戦史の難しさがあるのだろう。
司馬遼太郎の「秋田県散歩」にも、実はこの戦いの話が出てくる。司馬は満州の四平にあった陸軍戦車学校時代の友人を、この戦いで亡くしているのである。
私の友人は、すくなくとも四人戦車のなかで死んだ。高木弘之(舞鶴市)、蘆田章(福知山市)、田中章男(京都市)、吉村大(京都市)である。
2010年8月1日発行、新潮文庫、514円。