塩豚と冬瓜を煮る夕暮れのとろりと融けて遠し名古屋は
今日は手が明日は唇(くち)ができるころパラパラ漫画のようなる日々か
栗鼠が枝をはこぶ如しも内側を押されてわれの皮膚は波打つ
心臓を吸いだすごとく乳を飲むみどり子はつか朱(あけ)に染まりて
わがうちの渚はるかに光る午後生きなおすごと深く眠れり
錘なる雨が降る日や床柱に太郎を縛りしかのこ愛しき
青空にガーゼめきたる雲およぎ犬の字に眠る君とおさなご
人混みは大人のものでおさなごの前には銀のみちのあるらし
かしゅぽんと昼のビールをあけており祖母の家には夏が濃くある
ひとりまた同僚欠けて疲れゆく夫の箸先うすき翅あり
「まひる野」所属の作者の第1歌集。
妊娠・出産・育児に関する歌が中心となっている。
2首目は妊娠中の歌。「パラパラ漫画」のように日々変化していくのだろう。
3首目も同じく妊娠中。こちらはかなり生々しい。
5首目は「生きなおすごと」がいい。出産後の新たな心境である。
6首目の「かのこ」は岡本かの子。子育ての大変さに共感するのだろう。
9首目は「かしゅぽん」というオノマトペが絶妙だと思う。
2013年12月15日、本阿弥書店、2500円。