ということで、全歌集を読み返している。
読み返していて、数詞の入っている歌が多いことに気が付いた。
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
茶碗の底に梅干の種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ
何もせず暮していると耳朶に黒い三本の毛が生えてきた
四尾連(しびれ)湖の尾根の下りに一枚の綿の畑があるを見つけた
滝戸山頭の上から月が出て五右衛門風呂をいっぱいにする
第六番卜雲寺(ぼくうんじ)の門くぐりゆく背におむすびの温もりさめず
縫いあげの取れし七つの春なりきあなたは岡谷へ売られ行きたり
亡き父母が無尽をあてて購いし八角時計が正午を告げる
念仏を唱えるようにつぶやいて算盤玉の九九を覚えし
十朱幸代君が唄えば浅草の酸漿市の夜は闌けてゆくなり
1から10までたわむれに並べてみたら、どの歌にも味わいがあって心ひかれる。
口語歌を成功した彼、対象をよく観る目がすばらしい。シビレ湖の名も魅力的。このようなすばらしい自然のなかの人の営みに晴眼をまばりたい。