副題は「名物で語る日本近代史」。
近世的な「名物」が、どのような変容を経て、近代的な「おみやげ」となっていったかを考察した本。日本各地の「おみやげ」を切り口に、鉄道、博覧会、軍隊といった近代的な装置が社会や文化に与えた影響を、非常に具体的に、実例に即して記している。
とても、おもしろい。
私たちが歴史やモノの由来について漠然と思い込んでいることが、実はそうではなかったといったことが、次々と明らかにされる。
日清戦争という初の対外戦争は、「国民」形成の契機であった。そして、戦争とそのための動員に伴って生じた人々の移動が「おみやげ」を生み出した。それこそが、岡山の吉備団子なのである。
鎌倉は古くから連綿と続く古都というイメージが強いが、実は、近世にはかなり衰退が激しかったこともあって、めぼしい名物菓子は長らく存在していなかった。
現在では、宮島の名物というと「もみじ饅頭」を思い浮かべる方が多いかと思う。だが、その歴史は決して古いものではなく、明治前期には、その存在すらも確認できない。
明治初期、もっとも多くの入湯客を集めていたのは道後温泉である。それに続くランキング上位は、武雄(佐賀県)、山鹿(熊本県)、浅間(長野県)、霧島(鹿児島県)、渋(長野県)、二日市(福岡県)といった具合である。少なくとも、現在一般的にイメージされる温泉地の分布とは、大きく異なる姿であることは、はっきりとみてとれる。
また、土地の歴史と結び付いた食べ物類が中心となっているという点で、日本の「おみやげ」は欧米とも東アジア諸国とも異なっている。日本近代史論だけでなく、日本文化論としてもユニークな1冊だと言えるだろう。
2013年2月21日発行、講談社、1500円。