岩波書店で長年にわたって『広辞苑』や『岩波国語辞典』の編集を担当してきた著者が、辞書作りに関わる話を書き綴った本。最近、辞書に関する本がたくさん出ていて、ちょっとしたブームになっているようだ。
「辞典はことばを定義するもの」とおっしゃる方もいますが、それは違います。国語辞典はことばの意味を記述しますが、定義はしません。
というあたり、言われてみるとなるほどと思うし、
『広辞苑』は改訂のたびに項目が増え、その分ページ数が増えます。大量部数の製本のために機械を使用しなくてはなりませんが、その製本機械が扱える厚さには最大八〇ミリメートルという制約があります。
など、初めて知ったことも多い。
短歌に関することで言うと、『広辞苑』の「しずもる(静もる・鎮もる)」の変遷がおもしろい。
・初版 しずまっている。しずまってある。
・第二版 「しずまる」に同じ。(明治時代の造語か)
・第三版〜第五版 「しずまる」に同じ。(明治時代の歌人による造語)
・第六版 (明治時代に造られた歌語)「しずまる」に同じ。「うらうらと照れる光に
けぶりあひて咲き―・れる山ざくら花」(牧水)
事件の謎を解くように徐々に犯人(?)を絞り込んでいき、最新の第六版になって、ついに牧水登場というわけである。
「塔」創刊60周年記念事業として準備を進めている『塔事典』も、今年7月には完成の見込みだ。出来上りが待ち遠しい。
2013年10月18日、岩波新書、760円。
それと広辞苑6版が牧水を引いているのも、ちょっとおもしろいですね。この歌は大正時代の歌集に入っていたような? 「明治時代に造られた歌語」の例になっていない気がしますが。
現代短歌でも、河野裕子「たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり」ほか、普通に使われていますね。