直定規・雲型定規をつかひ分け仕上げてゆかむ計測図面
母が食べよと持たせてくれし一房の葡萄(ぶだう)が夜勤の卓に光れり
爪の型の貝をひろひて来しわれら夜は潮(うしほ)にぬれつつ眠る
コーヒーの香りのなかにめざめゐてやさしきこゑに呼ばるるを待つ
生きもののごとく油槽に流れこむ五千リッターの重油まばゆし
送風をとめたるあとの鉄管にかすかに風のこもりゐる音
病(やまひ)重くならばすぐにも帰り来むと父に告げわれは東京へ発つ
まぎれこみやすければいつも作業台につきさしておく千枚通
火の気なき部屋に蔵ひおく危険物第四類第一石油類ガソリン二罐
コーヒーが飲みたくなりて一人分の湯をわかしをり宿直室に
第1歌集文庫。
元の本は、1981年に短歌新聞社から刊行されている。
仕事のうた、それも現場の作業を詠んだ歌が中心となっている。「モーター」「蒸気圧」「送受器(ブレスト)」「ボイラー」「ケント紙」「スパナ」「ヒューズ盤(パネル)」「ハンダ鏝」「冷却塔」「バーナー」「ボルト」「変圧器」など、仕事に関わる言葉が数多く出てくる。
今回引いた歌も、1、(2)、5、6、8、9、10首目は仕事の歌である。それだけ印象に残る作品が多いのだ。
そう言えば、最近の歌集には、こうした仕事の歌が全般に減ってきている気がする。
2013年8月23日、現代短歌社、700円。