2014年02月17日

三枝浩樹歌集 『朝の歌(マチナータ)』


第1歌集文庫。原本は1975年に反措定出版局より刊行されたもの。
なににとおくへだてられつつある午後か陽だまりに据えられしトルソー
あかるすぎる街光に眼をしばたたく老年のごとし冬の訣れは
底へ底へとふりしずみゆく怒りとはあわれ標本箱のひぐらし
ゆきてかえらぬものへ劇しく向かいゆく暗きカヌーを漕ぐ、なにゆえに
限りなくわれを離れてゆくものにあかつきさむく立ちむかいおり
論理より離(さか)りて水を貫ける直(すぐ)なる思い生(あ)れやまずけり
橋上に炎えいし冬の火焔瓶そののちのわが日々を暗くす
劇中劇のごとき愛かな来し方のかげりを曳きて男去りたり
砂浜は海よりはやく昏れゆけり 伝えむとして口ごもる愛
田園はいちごの季節 きらきらと君の眼と僕の眼と出会う時

1964年から73年までの作品を収めた第1歌集。
思索詠、心象詠が歌集の中心をなしている。

1首目や3首目の下句の句割れ・句跨りのリズムなどに、前衛短歌の影響が濃厚に感じられる。その後、徐々に作者独自の世界が切り拓かれていったようだ。

7首目の「火焔瓶」には、70年安保に向けた学生運動の高揚と、その後の挫折が鮮やかに描かれている。

9首目は初期歌篇の中の一首。上句の景の描写が下句の心情を支えており、今読んでも少しも古びていない。

2013年6月27日、現代短歌社、700円。

posted by 松村正直 at 22:57| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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