副題は「唱歌、校歌、うたごえ」。
明治以降に作られた唱歌、校歌、県歌、労働者の歌やうたごえ運動を「コミュニティ・ソング」として捉え、そこに一貫して流れる「国民づくり」を目的とした歌のあり方について論じた本。
〈夏期衛生唱歌〉〈郵便貯金唱歌〉〈秋田県民歌〉など具体的な例が豊富に示され、説得力のある内容となっている。
この本が面白いのは、単に歌の話にとどまらないことだろう。近代化の過程で様々な変容をとげてきた私たちの文化全般について、どのように見たり考えたりしたら良いのかを示す「文化論」としての側面も強く持っているのだ。
われわれは過去に目を向ける際に、知らず知らずのうちに、自分たちの価値観やものの考え方を当然のこととして前提とし、それを投影した見方をしてしまうために、同時代の人々のまなざしとは食い違ってしまいがちです。
文化というものは、継承と断絶とのはざまの、つながっているようないないような、微妙な空間をさまよいながら形作られてゆくものです。
ものを見るときの「枠組み」や「図式」を見直すことによって、一見、正反対の出来事と思われていた二つのことが、実は同じ基盤の上にあることがわかったり、前の時代と断絶しているように見えていたことが、実は微妙につながっていることがわかったりするのだ。
その論証の切り口は鮮やかで、まるで手品を見ているようである。
おススメの一冊です。
2010年9月25日、中公新書、840円。