第2歌集。2007年春から2012年秋までの450首を収録。
まずは前半から。
初、春、夏、名、秋、九と覚えたり力士にめぐる六つの季節
赤紫蘇の葉の裏側へ透けながら秋の陽は手に取りてみがたし
サワムラは水の流れる村にして夜勤ののちをふかく冷えこむ
旅一つ終へて失せたるマフラーの濡れて踏まるるさまを思へり
夫をらぬ昼にもぐれる夫の布団の案外寒きその掛け布団
夫のなかに蓮のひらきてうすべにのやる気といふものつねにはかなし
にほんざるのやうに並んで過ごす冬消したテレビに顔の映れる
人の死を伝へる記事に朱を入れる仕事 くるくるペンを回して
君の敵のウチカワのことをなぜか思ふウチカワが勝てばいいと思へり
しらかばとしらかばの影が向かひ合ふ奥蓼科の冬晴れの水
新聞社の校正の仕事を詠んだ歌が歌集のベースとなっている。
また、夫を詠んだ歌も多く、現代的な夫婦のあり方が見えてきて面白い。
1首目は大相撲の「初場所」「春場所」「夏場所」・・・のこと。一年に六場所あることを「力士にめぐる六つの季節」と詠んだのが美しい。
5、6、7首目は夫を詠んだ歌。夫婦の間の距離感をうまく捉えて歌に詠んでいる。これまでの短歌に見られる夫婦像とは違う感じがあり、この歌集の特徴、収穫と言っていいだろう。
8首目、「人の死」と「くるくるペンを回して」の落差に、自分の仕事を客観的に見つめる眼差しが感じられる。
2013年11月11日、青磁社、2500円。
わたしはこの歌が好き。