2014年01月16日

笹公人編『王仁三郎歌集』

玄界灘のあなたに青々と浮ぶ壱岐の島! 新しい塗料のやうに
久方の天の橋立に風あれてかもめのむれは片寄りにけり
憑依現象だ幽霊研究だとさわぐ学者のやせこけたあをじろい顔
日に幾度鏡のぞけどわが白髪朝もゆふべも白髪なりけり
をさな日のうつしゑのなきわれにして淋しみにつつ自伝記を書く
大いなる牛を曳きつつ牧童が夕べの川に足浸しをり
いかづちの音にもまがふ大瀧の真下に立てば夏なほ寒き
包丁をぐさりとさせばほんのりと匂ふメロンの朝の楽しさ
やまめと思つて食つた膳の魚が鰆(さわら)と聞いて俄かに味が変(かは)る
宗教家の自分をみて人間味たつぷりと評する人がある宗教の真味を知らないのだらう

大本(教)の教祖である出口王仁三郎は、生涯に15万首もの歌を残したことでも知られている。その膨大な歌から328首を選んで収めた本。

1首目は「新しい塗料」という比喩が印象的。
2首目、6首目は写実的な歌で、絵になるような風景を的確に描いている。
4首目は当り前の話ではあるのだが、加齢や老いに対する寂しさが滲んでいる。
9首目は人間の味覚の不思議を感じさせる歌。私たちは料理そのものだけではなく、それに関する情報も含めて味わっているのだろう。昨今の食材の「偽装」問題にも通じる話かもしれない。

王仁三郎については、以前「D・arts ダーツ」第6号(2004年12月)の特集「越境する短歌」の中で、「出口王仁三郎『東北日記』を読む」という文章を書いたことがある。

『東北日記』(全8巻)は北陸・東北・北海道・樺太への巡教の記録であるが、ここにも膨大な数の短歌が収められている。「樺太を訪れた歌人たち」でも、近々取り上げるつもり。

2013年12月28日発行、太陽出版、1800円。

posted by 松村正直 at 10:59| Comment(1) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
宗教家の自分をみて人間味たつぷりと評する人がある宗教の真味を知らないのだろう   王仁三郎

わたしも少しばかり宗教をかじったひとりとしてこの歌を窺いたい。王仁三郎をみて人間味たっぷり、の評はあながち誤りではなかろう。大量の歌を日につくるなどはわが寡作者にとっては大笑いである。くだらない歌の多さよりも秀歌ひとつがあればよい。見るところ殆どが屑籠に捨てるべき歌である。彼はどうも恥を知らない人間のようだ。さて、宗教家としてはどうなのか。これも怪しい人間のようだ。本当の真の宗教家たるものは宗教の真味などと軽く口にせぬものだ。真味知らぬものが真味をいったところで猿に等しい。さてみなさん、宗教の真味とはいかなるものでしょうか。答えを出してひとりの仏になってください。
合掌 良秀和尚
Posted by 小川良秀 at 2014年01月17日 18:11
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