今号の特集は「母」。ゲストの黒瀬珂瀾「母知らず」30首は、母と妻と二歳の娘のことを詠んでいて、印象に残る歌が多い。
長き会議に倦みたる妻は帰り来て桃色の保育所日誌をひらく
妻は児をざばざば洗ひ湯船なる吾はも膝を引き寄せにけり
妻と児を待つ交差点 孕みえぬ男たること申し訳なし
「父より母になりたい話」というエッセイも載っていて、その中に次のようなくだりがある。
子供が出来れば変わるよ、などとはよく言われるもので、言われるたびに「何が変わるもんか」と反発していたが、なるほどころっと変わる。自分でもこんなに変わるものとは思わなかった。(…)感情も考え方も生き方も変われば当然、短歌も変わる。それを単純に肯定したくない自分と、どこかで喜んでいる自分がいて、中々に複雑な精神生活を送っている。
率直な書き方で現在の自身について述べているところに、共感を覚えた。近く第3歌集『蓮喰ひ人の日記』が出るようなので、楽しみである。