2013年11月05日

資延英樹歌集 『リチェルカーレ』

右クリック、左ワトソン並び立つ影ぞ巻きつる二重螺旋に
モツァレラとトマトを和へたパスタからしづかな午後がはじまつてゆく
ゆく年とともに出で来てポストまで歩いたあとをかへる年なり
一頭を呼び戻すためもう一頭柵から外へ放ちやりたり
一旦は消されたレーンの石灰がそぼ降る雨に浮いてきたりぬ
しなやかな手つきに首を摑まれた白鳥だつたゆふべのぼくは
道綱の母と呼ばれて八〇〇年わたしもすこし草臥れました
崩れつつある砂山は砂山の本質として崩れつつある
一体にいくつ心は宿るらむまづはここなるたなごころ二つ
生きてゐるものをそのまま摂り入れてみせる行為が愛なんだらう

『抒情装置』(2005年)に続く第2歌集。第3歌集『NUTS』と同時に刊行された。

1首目はコンピューター用語の「右クリック」と、DNAの二重螺旋構造を発見したフランシス・クリック(とジェームズ・ワトソン)を掛けている。機知に富んだ歌だ。

7首目は「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱の母のこと。名前が伝わらず「道綱の母」とのみ呼ばれている女性の、かなしみのようなものが感じられる。

2013年3月1日、砂子屋書房、2000円。

posted by 松村正直 at 08:17| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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