北海道三笠市に炭鉱職員の息子として育ち、現在はNPO法人炭鉱(ヤマ)の記憶推進事業団の理事長を務める著者が、炭鉱とそこに生きた人々の姿を描いた本。暗くて悲惨なイメージが付きまとう炭鉱の歴史を再評価し、炭鉱遺産を受け継いでいこうという強い意志が感じられる。
第2章では「ある炭鉱家族の物語(ヒストリー)」として、父や自分の歴史を詳しく綴っており、ドキュメンタリーとしての側面も持っている。また、後半では、炭鉱遺産を中心とした町づくりについて触れているが、町づくりが単なる観光振興ではなく、地域の人々のアイデンティティと誇りを取り戻すことにつながることを述べているのが印象深かった。
著者は、1960年代のエネルギー政策の転換により急速に衰退した石炭産業について
このような短期間での劇的な変化の中で、炭鉱のある部分だけがクローズアップされ、「炭鉱=暗い」という図式が定着してしまった。そこでは、石炭生産を支えていた人たちの思いやドラマ、技術的な工夫と進歩といった前向きな要素は、一顧だにされなかった。
と指摘する。忘れられようとする歴史にこうした観点から光を当てる試みは、非常に大事なことだと思う。私が「樺太を訪れた歌人たち」について調べているのも、おそらく同じような理由によるのだろう。
2012年8月10日、創元社、1600円。