我が心をののき易き季(とき)となる山羊は日なたを既に恐れず
『夜の青葉に』
筆者の早崎久子さんは、他にも山羊の歌をいくつか引いて「歌集には〈山羊の歌〉の一連があり、そこここに山羊の姿があった」と書く。そして、自分も戦後の時期に牡の子山羊を飼っていたことを述べ、「私の山羊は戦後のあの日々の記憶の中に今も生きている」と記している。
私も以前、「山羊の歌と日本の戦後」(「星雲」2012年1月号)という文章を書いたことがあり、そこに高安の山羊の歌を引いた。同じく戦後の近藤芳美の歌集『歴史』にも、山羊を飼っていた歌が出てくる。
私は、それらの歌が詠まれた昭和二十年代を体験してはいないのだが、こうした歌や文章を通じて、少しではあるがその時代の空気を感じることができる。そんなところにも、短歌を読むことの楽しみはあるのだ。