時期が時期なだけに、戦争に関する歌が多い。
巻頭は佐佐木信綱の「大東亜文学者大会讃歌」と題する4首だ。
でも、戦時中とは思えないのどかな歌もけっこうある。
印象に残ったのは佐佐木秀綱の作品。
「箱根にて」と題する4首が載っている。
明星が朝日をうけてきれいすぐ下の真白い八千代橋をハイキングの人が大勢通る
芦の湖の水はこく青い汽船から向ふ岸まで二十米位泳ぎたいなと僕は思ふ
朝早く明星が岳は霧で見えず滝川の音ばかりすぐ近く聞える
ふろ場の真黒い屋根の上にさるすべりの花が真赤に咲いてゐる向ふの山は遠く青い
口語自由律の歌である。
他はほとんど文語定型の歌がならんでいる中で、ひとり異彩を放っている。
名前から見て、弘綱―信綱―治綱と続く家系のどこかに位置する人なのだろう。隣りに「明星ヶ岳」と題する佐佐木公子の2首も載っていて、おそらく夫婦に違いない。