なついた猫にやるものがない 垂直の日射しがまぶたに当たって熱い
「台風がもうすぐくるよ」コーヒーに注ぐミルクの口開けながら
スキー板持ってる人も酔って目を閉じてる人も月夜の電車
アルバイト仲間とエスカレーターをのぼる三人とも一人っ子
半そでのシャツの上からコート着てすきとおる冬の歩道を歩く
朝からずっと夜だったような一日のおわりにテレビでみる隅田川
缶コーヒーと文庫をもって立っている足元に吹いてくる夏の風
明るいなかに立っている男性女性 こっちの電車のがすこしはやい
電車の外の夕方を見て家に着くなんておいしい冬の大根
青と黒切れた三色ボールペン スーツのポケットに入ってる
意識を集中するのではなく、拡散していく。同時に二つ以上のことに意識が向いている。そうした歌の作り方に一番の特徴があるように思う。中心が一つの「円」ではなく、焦点を二つ持つ「楕円」のような感じ、とでも言おうか。
それは、私たちの日常の意識のあり方としてはむしろ普通のことなので、短歌でもその方法がうまく行くと、非常にリアルな印象の作品が生まれる。
2012年5月20日、ブックパーク、1300円。